古い酒場のカウンター、入口を少し入って左横にそのカウンターがある。
その左隅のカウンターチェアーが、いつもの私の定位置だった。 女一人で行くような店ではないが、 私はなぜか、この店のこの椅子に腰掛け、酒を飲む。 ここに通うようになってから、すでにずいぶんと時が過ぎていた。 さほど広くはない酒場だが、フロアーを囲むように、 壁際に4~5人のグループが座れるような5個のボックス席がある。 もちろんホステスなどはいない安酒場だ。 店の経営者であるマスターとママ、それに雇われているボーイが一人。 客はほとんどが3~4人のグループでやって来て、自分勝手に遊ぶ。 時々、マスターやママが、カラオケや踊りの相手をして場を取り持つ。 ボーイは忙しそうに注文の酒を運ぶ。 男も女も酔いが回ってくると別のボックスにいる相手にちょっかいを出し始める。 盛り上がってくると、一緒に来たであろうグループが入り乱れ、 ホールでは、初めて会ったばかりであろう男女がチークを踊っている。 中には、一緒に来たはずのグループから離れ、手に手を取って店を出て行く客もいる。 ありふれた、酒場の仮想恋愛とでもいうのか、 ほんの一時のアバンチュールを求めてでもいるのか。 都合のいいことに、こういう酒場の照明は薄暗い。 私は、このきちがい沙汰を背に、店主と世間話をしながらいつも酒を呑んでいるのだ。 もちろん、飲んだくれた客が私にちょっかいを出してくる時もあるが、 そんな時はマスターが追い払ってくれる。 それでもしつこく私の肩に手をかけてくるヤツには、とっておきの手がある。 幸いカウンター内の照明は明るい。 両手で顔を覆い、振り向くのさ。「いないいない、婆っ!」ってね。 あははは、まさか私が婆さんだとは思ってもいなかったようだね。 yayokuさん。さっそく使わせてもらいましたよ。
by haru123fu
| 2011-04-17 19:10
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Comments(8)
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ヴァッキーノ
at 2011-04-17 20:53
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>アバンチュール
なかなか出てこないワードですね。 まさか、「いないいないばあ」の続編?っていうか、 新いないいないばあっていうそういう面白さがありますね。
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haru123fu at 2011-04-17 21:40
♪♪ ヴァッキーノさん。
ね、ねっ、昭和レトロっぽくていいでしょう?カラオケにするかジュークボックスにするか悩んだんだよね! ジュークボックスだとなんかアメリカっぽいかー?とかね。 LPレコードで、ジャズも考えたんだけどオシャレすぎだぁ?とか。 でも、そんなことはどうでも良かった。 要は。「いないいない、婆っ!」を使いたかっただけでした。(笑)
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矢菱虎犇
at 2011-04-17 23:04
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お洒落に初めて盛り上げといて、ラストで一撃急転直下!
ショートショートコント、かくあるべきです。 まぁ、ボククラスの酔っぱらいになると、酔えば酔うほどストライクゾーンが広くなっちゃうからなぁ~ ご年配のご婦人も場外ホームランしちゃうかもです。デヘヘヘヘッ
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haru123fu at 2011-04-18 09:46
♪♪ 矢菱虎犇さん。
そっかー!女心は海よりも深く、男心は海よも広いのですね。(笑) ましてや、酔えば酔うほどに、あばたもえくぼ、老婆も女性って アチャー!信じらんな~いヘ(゚∀゚ヘ)アヒャ(ブリッコしちゃった…笑)
「いないいない婆ぁ」の一言から思いついたストーリーが、雰囲気のある情景描写と語り口で面白い作品になっていますね。
ひとつ、この主人公がほかの客にどう見えていたのかの描写がないんですが、若く見えるような服装や髪形をしていたのか、歳相応の服装をしているのに暗くて判らなかったのか、婆さんでも歳がどれぐらいなのかが気になったんですけどね。 若くして孫が出来て婆さんになる人もいるし(笑) 最後のセリフに年齢を入れるとか? 「私が婆さんだとは」で、白髪頭のやまんばみたいなお婆さんを思い浮かべてしまいました。 それではちょっと違和感がありすぎだったのね。 でもでも、オチとしてはその方が面白い。 で、後ろから見ると若く見えてた事にした方がいいのかな、とかいろいろ考えました。
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りんさん
at 2011-04-18 15:15
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haru123fu at 2011-04-18 20:15
♪♪ 海野久実さん。
仰るとおり、最後のセリフに「私が80の婆さんでもいいのかい?」 を入れたのですが違和感があって消しました。 実際に後ろ姿がさらさらロングヘアーでジーパンをはいて、 とてスレンダーなバックシャン(いまはこんな言葉使わないかも)で、 きれいな女性を見たことがあって、振り向いたその顔はビックリ! ということがありました。ヘアスタイルたぶんカツラだと思うのですが、ご主人が16歳も年下なので、頑張って努力してたのでしょうね。 いくつになってても女はオンナかなあ?って海野さんに聞くのも おかしな話ですよね。(ノ∀`) アチャー
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haru123fu at 2011-04-18 20:23
♪♪ りんさん。
お婆さんになっても、ひとりでぷらっと酒場へ行くような元気でいたいものです。 仕事帰りに時々ひとりで飲みに行くことがありました。 行きつけのススキノのスナックでした。 いまとなっては、夢のまた夢? あははは、でもきっとそんな現状が普通ですよね。(笑)
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