橋の欄干に手をかけ、その上に上る。
冷たい夜風が私の頬を撫でる。 こんなはずじゃなかった。 どうして?こんな人生ではなかったはずだ。 暗闇の中、川の流れる音や雑草のざわざわした音が聞こえる。 ずっと昔、同じ音を聞いたような気がした。 ああ、そうだ。あの時と同じだ。 死に場所を探し、土手をさまよい歩いたあの日と。 なぜ、なぜ、あの時に死ななかったのか。私は悔やむ。 そうだ。忘れるはずがない。 あの時は、お腹の中で、赤ん坊が私のお腹を必死に蹴った。 「死にたくない!」と叫ぶ赤ん坊の声が、私には聞こえたような気がした。 生まれ来る命を殺す事になる。私はためらった。 私が死を選ぶのは手前勝手なことだが、お腹の赤ん坊に選択肢はない。 私が死ねば赤ん坊も死ぬ。 つまりは、私は殺人者ということになる。 そうだ。そうなのだ。あの時は死ねなかった。 けれど、今は違う。私はもう自由だ。 私の身体は誰のものでもない。私自身のものだ。 突然、雲の隙間から月の光が闇を照らした。 川面に月が映っている。 「おいで、ここだよ。ここまで来れば楽になれるよ。」月が言った。 川の流れに揺れながら、月が私に手招きをする。 「さあ!おいで、ここへおいで。」 ほら飛ぶんだよ。両手を翼のように広げて。 うなずいて、私は大きく手を広げ空を舞う。 「ハイ!カット!うん。いいシーンが撮れたよ。 死を覚悟した女性の悲哀が横顔に良くでていたよ。良い作品になりそうだ。」 女優は、監督と嬉しそうに話をしている。 でも、飛び込んだのは私だ。命がけのスタントに誰も見向きもせず、 びしょ濡れの私は自分でタオルを取って顔を拭いた。
by haru123fu
| 2011-05-08 22:10
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Comments(10)
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ヴァッキーノ
at 2011-05-09 21:35
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あー、本当だあ!
ボクの夢日記とharuさんの橋が 競作してる~(笑) スゴイですね。 しかも、なかなか捻ったお話し。 もちろん飛び込んだのは、 志穂美悦子ですよね?
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haruさんてどんどんうまくなって来てますよね。
語り口とか、なかなかいい感じです。 落ちの意外性も申し分ないと思います。 これって繰り返し使えると思いませんか? それは夢でしたという「夢オチ」ならぬ「映画オチ」? あ、「映画オチ」は僕も書いてましたっけ。 ぬれせんべいのやつね。
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矢菱虎犇
at 2011-05-10 01:26
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りんさん
at 2011-05-10 14:14
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haru123fu at 2011-05-10 17:21
♪♪ ヴァッキーノさん。
ねっ!やっぱり、ヴァッキーノさんの言うとおり、 駄菓子屋さんとか、居酒屋さんで、みんなでワイワイと おしゃべりしているのかもしれませんね。(笑) 繋がっているってとってもありがたいことです。
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haru123fu at 2011-05-10 17:32
♪♪ 海野久実さん。
>ぬれせんべいのやつね。 ぬれせんべいを探したのだけれど、見つかりません。 いつ頃の作品か教えて下さい。お手数かけます。(スミマセン) キャンディーズのスーちゃんの追悼作品をTVで見て、こんなお話を 書きました。(全然関係ないじゃん!) 色々な苦しみと闘って、とってもステキな女優さんに なっていったんだなあって思うと、とても残念です。
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haru123fu at 2011-05-10 17:39
♪♪ 矢菱虎犇さん。
この頃ちょっと頭ヘンなんです。(いつもだろーよ!) 見えるものの陰には、必ずなにか、見えなくても存在するものが あるような。 その見えないけど存在するものが、様々な現象を起こしているのでは。 なんちゃって、ガラにもなく考えてみたりして(笑)
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haru123fu at 2011-05-10 17:47
♪♪ りんさん。
そうなんです。スタントマン(スタントウーマン?) 今は、CGなんかで、あまり仕事ないんじゃないのかと心配です。 (余計なお世話ですが……笑) そう言えば、ヴァッキーノさんが言ってた志穂美悦子さんは、 女優つづけてるのかなあ!(これも余計なお世話ですね……笑) スミマセン(汗)映画オチでした。ヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ
やあだー!私って馬鹿ダー!最初から映画オチって言われているのに……
もーっ(涙)そのまま深い雪国の世界に入って行ってしまいました。 海野さんの情景描写に、ついついその世界に入り込んでしまいます。 ┐( ̄ヘ ̄)┌ フゥゥ~どうして、こうも単純なのか。。。(笑) わざわざ、すぐ飛び込んで行けるようご配慮ありがとうで~す。 「ぬれせんべい」からどうしてこんなステキなお話が生まれるのでしょうか。 手元の「堅焼きせんべい」を見つめてもなにも発想は浮かびません。(笑)
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