盆の頃になると必ず思い出すことがある。
子ども達も成人し、独立してからは、墓参りも夫婦二人で行くことが多くなっていた。 そんな三年前のできごとだった。 車の渋滞で、目的地の墓へ着いたのがもう6時をとおに過ぎていた。 妻は、こんなひどい渋滞は初めてだと、助手席でブツブツ文句を言っていた。 毎年混むには混むが、この年は異常だった。 「たぶん、事故でもあったんじゃないか。」と妻に答える。 時間が経てば経つほど妻はイライラをつのらせていった。 もちろん運転している私の方がよっぽどイライラすると思った。 おかげで墓地に着いたときは、夏とはいえもう薄暗くなり始めていた。 私達が墓参りに行くのは田舎の小さな墓地だった。 町があちこちの墓を統合して立派な霊園を造ってはいたが、 子どもの頃から通い慣れたこの場所が、 私にとっては本当の墓地のような気がしてまだそちらには移設していなかった。 暗くなる前にと思って大急ぎで墓の掃除をしていた時だった。 初老の男が声をかけてきた。妻はビックリして素っ頓狂な声を上げた。 「ああ、奥さんすみません。驚かせてしまって。」とその男は頭を下げた。 そして申し訳なさそうに、花を二輪分けてもらえないかと言うのだ。 こんな寂れた墓地だが、いつもは墓地の入口で、たぶん農家の女将さんだろうが、花を籠に入れて売っていた。それをあてにして来たのだが、時間が遅くなってしまった為もう店じまいしていて買うことができなかったと言う。 「ああ、凄い渋滞でしたものね。」お互い様だと思い、 私達は持ってきた花の中から菊を二輪とりだしその老人に手渡した。 老人から少し離れた後ろの方で品の良さそうな中年の女性が、申し訳なさそうに私達に何度も頭を下げていた。 妻が、小さな声で「きっと娘さんよね。二人でお墓参りに来たのね。」と言う。「ああ。」と私も答えて、 「ほら、さっさとしないと真っ暗になって幽霊が出るぞ。」と言った。 妻は「止めてよね、私が怖がりなのを知っているでしょう。」とわざとふくれて見せた。 「ほらほら、そんな顔するとご先祖様がお前の顔をふぐとまちがえるぞ。」と冗談を言いながら、 花を飾り、お供え物をして、お参りをすませた。 帰り際に墓地の出入口で、先ほどの老人とまた会った。 老人は丁寧に私達に会釈をした。 私達も「お疲れ様でした。」と声をかけた。 しかし、帰りは老人一人だけで、先ほどの女性はいなかった。 「妻が、あら、娘さんはもう先にお帰りに?」と聞いた。 すると老人は不思議そうな顔をして、自分は一人で来たと言った。 私が説明すると、老人は、それはきっと妻にちがいないと言った。 20年前に50才で病死したという。老人は私達の話を聞きながら嬉しそうに微笑んだ。 「お盆になると昔のままの姿で私が来るのを待っていたのですね。」と。 そして「ありがとうございました。」とまた深々と頭を下げ帰って行った。 妻が言う「あなた、怖くない幽霊もいるのね。」「ああそうだな。」と私は答えた。 帰りの車の中で、妻は疲れたのかうつらうつらとしている。 こうして、妻が横にいる幸せを改めて感じた墓参りだった。
by haru123fu
| 2011-08-16 18:25
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Comments(12)
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tatsu
at 2011-08-16 18:34
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ショートショートと言うエッセイですね
haruさん御夫婦のほのぼのした様子が伝わります。
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haru123fu at 2011-08-16 19:59
♪♪ tatsuさんへ
ありゃっ?あれっ? どうも、ショートショートと掌編小説、エッセイの区別が??? あの~、その~。。。実はまるっきりの作り話です。 この中で事実なのは、田舎のお墓が町営でまったく場所が移り、 私自身は、今でも取り残されたようにある墓地の方が好きなことです。 子どもの時から父とよく行っていたものですから。(*´ェ`*)スミマセン
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harumimi1121 at 2011-08-16 21:32
お盆に墓参り。。。
どんな怖い話になるのかと思ってましたけど 良いお話でしたね~♪ そうですね。怖くない幽霊もいるんですね。 私も大好きなじぃちゃんとばぁちゃんの幽霊なら きっと怖くないと思います。 素敵なお話をありがとっ♪
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矢菱虎犇
at 2011-08-17 01:28
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いやぁお盆らしいお話ですね。幽霊の話なのに、夫婦愛みたいなのを感じるから怖くないってのがまたステキです。
「私」の奥さん、ホントに生身の奥さんかな~? 御夫婦なのに、にしては奥さん、若く見えますぜ~
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haru123fu at 2011-08-17 07:53
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haru123fu at 2011-08-17 07:59
♪♪ 春待ち りこさんへ
大好きな人の幽霊なら、ホント怖くないですよね。 もしもいるのなら出てきて欲しいです。(笑) 亡くなった人を夢で見ることはあっても、幽霊って一度も見たことが ありません。ホントにいるのかなあ~(笑)
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haru123fu at 2011-08-17 08:20
♪♪ 矢菱虎犇さんへ
虎犇さんの奥様が、生身かどうかは人差し指でちょっとだけ、 突いてみるとわかりますよ。柔らかくへこんだら生身で、 突き抜けたら幽霊……朝からそんな馬鹿なこと言ってる私は、 はて、さて、生身の人間だろうか……?!
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ヴァッキーノ
at 2011-08-17 10:00
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自分が死んだってことを理解できてないから
幽霊になって出てきたりするんでしょうね。 ってことは、ここにいる登場人物全員が幽霊ってことも ありうるわけです。 成仏できない地縛霊のところへ 成仏したと思いこんでる幽霊が お盆に帰って来る。 成仏したら、この世にこだわりがないから お盆に帰ってきたりしませんもんね。 ほのぼのしてそうでいて、実は怖いなあ。。。
こんなほのぼのとした霊体験なら 遭遇したいですね~
会いたくても夢すら見ないですよ・・ でも いつか必ず会えると信じてそれを楽しみにしてます^^? それにしてもharuさんは文章が上手ですね~ 私がこの長さをタイピングしたら 支離滅裂の文章&1時間以上かかりますよ。
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haru123fu at 2011-08-17 11:36
♪♪ ヴァッキーノさんへ
>ここにいる登場人物全員が幽霊ってことも キャッ!スゴイなヴァッキーノさん。アワ((゚゚дд゚゚ ))ワワ!! そんな風に柔軟な発想が私にもできたらなあー。。。(ウラヤマシイナア) あの~、ヴァッキーノさんが以前に書かれた『7人の犯罪者』(全8話) の大作を朗読させてもらいたいなあと思いながら、私にはムリだろうなと思ってみたり。。。で、揺れています。心だけは充分優柔不断なのですが。 ん!柔らかさの意味が違うか。ヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ
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haru123fu at 2011-08-17 11:54
♪♪ jamさんへ
死んだ人が夢に出てきて話をしたら成仏できていないなんて、言う人がいますけど、実際に死んだ後の事はわかりませんね。(笑) 病気のせいで握力もかなり弱くなっているので、タイピングも結構しんどいです。でも、なにもしないでいるともっとダメになるのでは? そんなことを思い、私には全てリハビリなんですよね。(笑)
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