カテゴリ:ショート・ストーリー( 90 )

夢、売ります (改編)

場末のかなり古びたビルの2階にひっそりと「夢、売ります」と書かれた紙が貼ってあるドアがあった。
「本当だったのか。」俺はつぶやく。

一週間ほど前のことだった。友人が訪ねてきたので、酒を呑みながらひとしきり人生論をぶつけ合った。
いつものことだ。呑めば呑むほどにお互い冗舌になり勢いづく。
ヤツは、俺から言わせればバカがつくほどポジティブな考え方をする。
それに反して俺は、「社会が悪い、政治家など無能な奴らの集団だ。」などと、
自分の境遇をなんでも世の中のせいにして、物事を斜めに見る癖があった。

まったく意見の噛み合わない二人だったが、幼馴染みの腐れ縁とでもいうか、
時々、こんな風に酒を酌み交わし、言いたいことを言い合う。
まったく違う考え方をするので、時には掴み掛からんばかりの口論になることもある。
しかし、これで案外本当は気が合っているのかも知れない。

この日も、言いたい放題言い合っていて、ふと俺は疑問を感じた。
ヤツも俺もとうに四十半ばを越している。
小さな町工場で油まみれになって働いているが、安月給のほとんどは家賃と食費で消えて無くなる。
ヤツだって、俺と大して変わらないような生活だ。

なぜヤツはそこまでポジティブな考え方ができるのか?
ただのアホみたいな楽観主義者じゃないのかと思っていたが、今日はなぜか疑問となる。
そして俺の頭の中にどんどん膨らんでいく。突然話を止めた俺の顔をヤツが覗き込むように見る。
「どうした?」と聞く。俺はこの疑問をヤツにぶつけてみた。

「なんだ。そんなことか!」とヤツは笑った。
そして意味ありげに「実はな、俺は夢を買っているのさ。」と答えた。
ガキでもあるまいに、夢や希望だなどと本当にヤツはバカじゃないのかと今さらながらに思った。

そんなことがあって今、このドアの前に俺は立っている。もちろん俺がバカにして笑うので、ヤツは口から唾を飛ばしながら真剣にこの店のことを話す。

f0227323_1244174.gif本当にその店は存在していた。
それにしても、「夢、売ります。」なんて半信半疑で、ドアノブに手をかけた。
中は薄暗く狭い。濃いえんじ色のカーテンが日差しを遮るように垂れ下がっていた。
その中央に同じえんじ色のテーブルクロスを掛けたテーブル。
まるで占い師のようなに白髪の老婆が一人腰掛けている。
俺を見て、自分の前の椅子に腰掛けるようにと俺を促す。

「どのような夢をお望みですかな?」しわがれた声で俺に聞く。
「今のままでは将来が心配です。」不思議なほど素直に自分の気持ちが
口をついて出た。
「あなたには安らぎの夢が良いでしょう。」老婆はそう言って
カーテンの向こうに消えていった。

少しして紙袋に入った薬のような物を持って出てきた。「よろしいですか、これを飲む前に、自分が将来こうなりたいと思う姿を強く思い描くのです。そして、それからゆっくりお休み下さい。あなたは、あなたの望みどおりの夢の世界を見ることができます。」
10分程度の時間で、治療代と称して、二千円を支払う。部屋を出るともう次の客が来ていた。

俺は目をさました。そう、半信半疑ながらも老婆の言うとおりにした。確かに夢を見た。
競馬で大穴を当てた。次から次へと札束が、雨のように降り注ぐ。俺には全世界が明るく見えた。

それから数日、俺には楽しい夢の世界が待っていた。
どんなに嫌なことがあっても、夜が待ち遠しいほど楽しかった。俺はいつもの通りビールを呑んで
ベットへ入った。少しワクワクしながら。

ところが、朝目を覚めるといつものような夢を見ていなかった。それどころか追い詰められるような嫌な夢を見て、体中冷や汗をかいていた。「そうか、薬の効き目が終わったのか」俺はひとりつぶやいていた。

そんな事があっていつの間にか、まるで引き寄せられるように、例のドアの前に立っている俺がいた。
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by haru123fu | 2016-06-13 12:53 | ショート・ストーリー | Comments(4)

赤いスキー

静かに雪が降る寒い朝だった、窓辺のロッキングチェアーに腰かけ、老婆は雪を眺めていた。
膝には温かなひざ掛けをかけ、ゆったりとした椅子の揺れに身を任せている。

雪は舞いながら庭に落ちては融けることを繰り返していたが、いつの間にか庭を真っ白に覆っていた。

まるでレースのように降りそそぐ雪は、老婆に幼い頃の思い出を見せていた。

クリスマスイブの夜に初めてサンタさんからもらった赤いスキー。
誰のものでもない自分だけの赤いスキー。
それまでのスキーはお下がりのスキーしかなかった。

あれは6歳のクリスマスのことだった。
初めて自分だけの真新しい赤いスキー。彼女が一番欲しかったプレゼントだった。サンタクロースは確かにいたのだ。

降る雪はまるでスクリーンのように、少女の姿を映し出した。
木立の中を抜けさっそうと滑る少女がそこにいた。
頬に当たる雪で、真っ赤になった顔や、木立を抜けるスピードとスリルさえ感じていた。

老婆は深い呼吸をひとつした。身体が少し傾いた。ひざ掛けは床にするりと落ちた。
でも、老婆の顔は少し笑っている様だった。

サンタクロースがくれた最後のクリスマスプレゼントだったのかもしれない。f0227323_783181.gif
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by haru123fu | 2015-12-23 07:11 | ショート・ストーリー | Comments(2)

選択

選ぶと言うことは、人間としての特権ではないだろうか。そんな事を思わせる出来事が起きた。

 裕子の携帯が鳴った。名前を見る。従姉の恭子からの電話だった。
いつものように「もしもし元気かい?」と明るく尋ねる。
ちょっと口ごもる返事。次ぎに出た言葉は「ごめんね。」だった。その後に続く言葉は、裕子の姉のような存在だった従姉の雅子の死を知らせる言葉だ。恭子は、雅子に誰にも知らせないよう固く口止めされていたことを説明しながら謝る言葉が続く。恭子は雅子の妹である。

とても信じられない。裕子は十日ほど前に雅子に電話を入れていた。いつも通り明るい声でみんな元気にしているとの返事を思い出す。ところが、恭子が言うにはもう2年も前から乳がんが見つかり闘病生活をしていたとのことだった。癌が見つかった時は、摘出手術がまだ可能だったようだ。ところが人間の持つ自然の治癒力を信じた雅子が選んだのは徹底した食品管理による東洋医学だ。

ますます信じられない話だ。なぜ?どうして?そんな疑問が雅子の死の悲しみよりも、驚きとしてしか受け止めることができない。生涯独身を通し、信仰心が深く、人のためにつくし、いつも明るく元気で、はつらつとした雅子だった。

裕子の住む街は札幌だ。大急ぎで、雅子の住む小樽へと駆けつける。
あまりにも変わり果てた雅子の遺体が横たわっていた。表現するならば、まるで即身仏のような姿であった。信心深い彼女らしい姿だった。この時初めて裕子は雅子の死を実感せざるおえなく悲しみに涙した。

人には生きる道を選び歩いて行かなくてはならない節目が、意識しようと、しまいと何度となく訪れる。例え人に言われたことであれ、決めたのは自分自身である。それが人間に与えられた特権ではないのかと裕子は思った。
もしも、雅子がメスを入れるのにまだ間に合う西洋医学を選んでいたとしたらその命はまだまだ尽きることが無かっただろう。しかし、まるで即身仏のような姿にはならなかったのかもしれない。そう思うことで、裕子は自分自身を納得させようと繰り返し思うのだった。
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by haru123fu | 2015-06-29 20:45 | ショート・ストーリー | Comments(4)

父、帰る【競作】

ソ連軍の捕虜になった日本人の中に、山崎と武藤と竹下がいた。
三人は他の捕虜と共にシベリアへ送られることとなった。シベリア鉄道に乗せられた彼らは、一計を案じた。それは夜の闇にまぎれてそれぞれ別々に汽車から飛び降り脱走するという計画だった。そして真ん中で飛び降りる者の居る所に向かって歩き合流する。
深い闇の夜が来た。まず山崎が先に飛び降りる。次に武藤。そして竹下の順だった。闇夜に機関銃の閃光が轟く。命を懸けた賭けだった。無事だった武藤は二人が来るまでじっと待つ。
左右から二人がそれぞれ武藤の所にやって来た。三人ともに無事だったのだ。
それから彼らの苦難が始まった。「生きて日本へ帰る」を合言葉に必死に歩き、泥水をすすり草の根を食べた。日本へ、日本へ。一歩一歩が祖国日本へ帰るための道のりだった。

日の当たる縁側で、おじいさんはひとり遠い空を見るように過去を見ていた。
玄関の戸が開き息子が帰って来た。団塊の世代と呼ばれた最後の息子も今年定年を迎える。

孫も結婚して子どもが生まれもう立派に独立している。
おじいさんは、大きなため息を一つついた。
あの時帰ることが出来たからこそ、否、帰って来たからこそ繋がった命である。
玄関の表札には山崎と書かれていた。

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これは、矢菱虎菱さんのブログから始まった競作です。
矢菱さんが「父帰る」3部作を書き、その後海野久実さんが「父孵る」を書き、
雫石鉄也さんが「父替える」を書きました。りんさんが「父、変える」を書きました。
最近は全く書いていなかったので皆さんと調子が合わないなあ~と思いながらも競作ですので、あしからず。
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by haru123fu | 2015-02-07 21:03 | ショート・ストーリー | Comments(6)

テキーラを飲み干して/ショートストーリー

あてもなく、ふらっと電車に乗った。
理由はただ一つアパートに帰りたくなかった。会社とアパート。ただ往復する毎日に変化が欲しかったのかもしれない。

けれど電車に乗っていると車窓には夕日が反射していた「秋の日は釣瓶落とし」って本当だなぁ~なんて思っていると、電車は見知らぬ駅に着いた。
あまり暗くならないうちに降りてみた。
薄暮の時間に知らない街をただうろついた。

お決まりのシャッター商店街。シャッターの降りた店が数件ある。
時計を見る。午後7時になっていた。こんなところでうろついていても仕方がない。まだ電車のあるうちに戻ろうとした。こんなことしていても何の変化が起きるわけでもない。自分がまぬけに見えてただ可笑しかった。

その時だった「海神」と書かれたランタンが灯っているバーを見つけた。
ちょっとためらいながら、思い切ってそのドアを開ける。ひそかな冒険だ。
「いらっしゃい。」マスターらしき男が声をかけてきた。店の中には他の客は居なかった。「お客さん初めてですね。」とマスターが聞く。
「そうなのただなんとなく駅を降りてしまったので」「何になさいます?」とマスターが尋ねる。ああ、そうだここはバーだった。「ビールを……」と言いかけて、「テキーラをお願いします。」と、飲んだこともないお酒の名前が口をついて出てしまった。気のせいかマスターは大丈夫かと言うような顔をしたので「ショットグラスでストレートを」とまた思ってもいないことを言ってしまった。食塩とライムのはいった小皿と一緒にテキーラがカウンターに置かれた。
(どうしよう?)ウィスキーみたいな感じかなって思っていたのだが、ライムと塩。戸惑っている私にマスターが「塩を少し口に含みテキーラを飲みます。そしてライムを少し舐めるのですよ。」お酒を飲んでもいないのに顔が火照った。

覚悟を決めて思い切り一気に飲んだ。「あれっ!甘い!」「お客さん、それはカクテルですよ。」マスターが言った。マスターと私は顔を見合わせ笑った。マスターの笑顔は優しかった。テキーラと言う名のカクテル。
知らない街での人との出会い。「海神」と言うバーの名前。私の小さな冒険がマスターの配慮で思わずドキドキする冒険になった瞬間だった。

★雫石鉄也さんへ ごめんなさい。一度海神へ遊びに行ってみたかったのです。

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by haru123fu | 2014-08-12 22:39 | ショート・ストーリー | Comments(11)

タイムスリップ/ショートストーリー

タイムスリップ

私は、時々タイムスリップをする。2~3時間のわずかな未来へ飛ぶ。
これまでのタイムスリップの最長記録は3日間だった。
もっともっと時間を延ばすことができれば、私は本当のタイムトラベラーとなれるのだが、
これは、なかなか難しい問題だ。人体実験は危険が伴う。
学問や知識不足な私が繰り返し自分を実験台に使って研究をしているが、成果はなかなか得られない。
さて、タイムスリップをする数時間前の私はなにをしていたのかを考える。
これは記録として残しておくための作業である。

目の前のPCの電源は入ったまま、ベッドで覚醒した私は、PCのスリープ状態を解除して、画面をみる。
飛び込んできた画面はWikipedia『繊維筋痛症』またくだらない検索をしていたのか。
全身の耐え難い恒常的な疼痛。

たしか以前は『生きているのが辛く、死にたくなるような疼痛』と書かれていたが少し医療は進歩したのか?
あははは、私は嘲り笑う。わずかなタイムトラベルを繰り返しても世の中そう変化があるわけもないか。
やはり時代は最低でも100年は飛び越さなければならないだろう。そう思った途端、めまいがした。
私は、そんなめんどうなことはとっくに飽きている。


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by haru123fu | 2013-06-19 19:04 | ショート・ストーリー | Comments(9)

愚か者

f0227323_1325721.jpg「死ぬべき時に死に損なった命は、
どちらを向いて生きていたらよいのでしょうか。」
少女が私に問う。

私はなんと答えればよいかわからず、おろおろする。
だがここで、なにかを答えなければ
少女は生きる気力を本当に無くするのではないか。
はたまた自分の愚かさをさらけ出すことになりはしないか。
心を落ち着けて私は少女に問う。

「死ぬべき時とは、どんな時なのでしょうか。」
すると少女は、うつろな目を私に向け、
「神様がおいでといった時です。」と答える
「私は神様に背いたのでしょうか。」と少女がまた私に問う。

「神様の声が聞こえたのですか。」
そう聞き返すと、少女は悲しそうな顔をしてうつむいた。
少女の問いに答えるべき言葉もなく。
私は彼女にただ問い返しているに過ぎない。
だが、その答えはあまりにも難問ゆえに、
正直、私には答えのすべがわからない。
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by haru123fu | 2013-01-22 13:19 | ショート・ストーリー | Comments(14)

自慢話/ショートショート

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今日は月一の定例会。みんなが集まっての飲み会だ。
私は先輩に誘われて、初めて参加した。
それぞれが、いかに人を驚かせたり、騙したかをまるで自慢するように
話している。

「俺なんか、とびっきりの美人の後ろをそおっと付け回してやった。」
「ああ、あるある。それぐらいは普通だよ。」
「でも、美人の驚く顔を見るのは楽しいものだぜ。」
「お前、変な趣味があるんじゃないのか?」

「俺は、人の寝静まった家になんども入って物を動かしてやった。
あちらの物をこちらに、こちらの物をあちらへと。
翌朝、取った、取られたと家中が大騒ぎだ。」

「俺なんざ、自殺志願者の耳元で、
そっと「飛び降りろ!楽になるぜっ!」って声をかけてやったよ。」
「それでどうなったんだ。」
「もちろん俺様のおかげで、決心がついて飛び降りたよ。」

みんな、楽しそうに笑いながら話している。
どういうことだ、ここは変質者の集まりか?不思議に思う。

そうこうしているうちに、私が話す番が回ってきた。
さて、どうしよう?
ああそうだ、最近よく見る夢の話をしよう。
「近頃、私が眠りに着くと幼子が私の布団にそっと潜り込んでくる。
布団をかけ直してやろうとすると、スッときえてしまうんだなぁこれが。」
そう言えばこんなこともあった。夜中に雨が降ってきて、窓を締めなくてはと思ったのだが、誰かが、入ってきて、窓を閉めてくれたので、起きることもなくそのままぐっすり眠り込んでいた。ところが翌朝目覚めたら、窓は開いたままだった。おかげで窓の内側はベチャベチャさ。

私の話を聞きながら、あんなに笑っていたみんなの顔が、不審そうに私を見ている。

「あれっ?俺は何か関係ない話でもしてしまったのだろうか?」

一瞬しらけたよう重い空気に包まれた。
その中の一人が口火を切った。

「お前さんは、まだ自覚が足りないんじゃないか?亡霊は夢なんか見ないぜ!」
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by haru123fu | 2012-09-17 11:23 | ショート・ストーリー | Comments(6)

視線/ショートショート

f0227323_171955.gif二人は坂道を登っている。岬へと向かっているのだ。
晴れ渡る青空、爽やかな風が時々二人を包むように優しく吹いている。
二人は楽しそうに話をしている。久しぶりのデートだった。
「ねえ、こんなにお天気が良いと海が綺麗にみえるでしょうね。」
「ああ最高だよ!」そう答えた男が突然後ろを振り向く。
「どうしたの?」「いや別に……。」
誰かが彼らを見ているような視線を感じて振り向いたのだ。

視線を感じる。あなたもそんな経験がないだろうか。
でも、振り向いても誰もいない。周りを見回してもだれもいない。
なのに、視線を感じる。大抵は「なんだ気のせいか」と思うだろう。

やがて二人は岬の先端に着いた。
青い空と白い雲、眼下にはそれは綺麗な青い海原が広がっている。
「二人で見るとこの景色は格段に綺麗だね。」男が言った。
「お天気が悪くても二人だと綺麗かしらね。」女が独り言のように言った。
男は振り向いていた。また視線を感じていたのだ。

女は切り立った崖を覗き込みながら、
「怖いわ、こんなに高いところから落ちたら絶対に死んじゃうよね。」
女の声で、男は我に返り、どれどれと言いながら身を乗り出すように崖下を覗いた。
その瞬間、女は身を翻して男の背中を押した。悲鳴とも叫びとも言えるような声を上げ、
男は落ちていく、落ちていく……。そして静かになった。

女はにやりと笑った。「私を裏切ったむくいよ。」
その直後、まるで慌てふためいた泣き声のような声で女は110番通報をした。
「早く、早く来てください、彼が、彼が足を滑らせて……。」
男が感じていたのは、視線ではなく女の殺気だったのかもしれない。

おわり
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by haru123fu | 2012-09-08 17:12 | ショート・ストーリー | Comments(14)

線路はつづく/詩

f0227323_13165036.gifどこまでも続く線路。
虚ろな目をした人達が、前へ前へと歩いている。
線路の先は暗い闇に包まれている。
私の横にも、前にも沢山の人・人。
線路はどこまでも続き、先はよく見えない。
それでも人は歩みを止めることも無くただ歩くのみ。

どこへ行こうとしているのかもわからない。
私自身も一体どこへ向かっているのかよくわからない。
古びて錆び付いた線路。
もう、とうの昔に廃線になったのだろうと思わせる。
虚ろな目をした人達と、言葉を交わすこともなく
私も歩いている。誰ひとりとして話をする者はいない。
静かで、重苦しい行進がいつまでも続く。

突然汽笛の「ぽーっ」となる音が聞こえた。
否、聞こえたような気がした。
するとその時、私の少し前を歩く人が倒れた。
誰一人気にも止める様子もなく歩き続ける。


                              それから、なん度となく汽笛が聞こえ、
                              その度に、一人、二人と倒れていく。
                              ようやく私は気づいた。
                              倒れた者が枕木となり、線路はいつまでもつづく
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by haru123fu | 2012-08-08 13:35 | ショート・ストーリー | Comments(10)