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むかしむかしのクリスマスのお話<クリスマス競作参加>

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『死の部屋のお話』<前編> 
『死からの生還』 <後編>からも、このお話につづきます。


むかし、むかしのお話です。
K町では一番大きい病院に少女は入院していました。少女は6歳でした。
両親は遠い町に住んでいたので、少女は独りぼっちでした。とても難しい病気だったので、
もう随分と長いこと病室が少女の住まいでした。
でも、少女は淋しくはありませんでした。先生や看護婦さんがとても優しく少女のことを可愛がってくれました。

体調の良い日は、病室から顔を出して、廊下を行き交う人達を見るのが楽しみでした。
廊下の奥には階段がありました。
先生や看護婦さんに、絶対行ってはいけないと約束させられていた階段が。
少女は不思議でした。自分には絶対に行ってはいけないという階段を、時々先生や看護婦さんが上り下りしているのを知っていたからです。
でも、少女は約束を守って絶対階段へは行きませんでした。

そして、クリスマスが近づいてきたある日。
少女のベットに看護婦さんが可愛いクリスマスの飾り付けをしてくれました。
「私は、お家にいないからサンタさんは来てくれないよね?」と少女が看護婦さんに尋ねると、
「そんなことはないよ。」どこにいてもサンタさんは、必ず見つけて来てくれると。
そして、病院にはどこの家にもないほどの大きな大きな煙突があると教えてくれました。
少女はもう一年以上病院で暮らしていましたが、その大きな煙突を一度も見たことがありませんでした。

そうだ。もしかしたらあの階段、あそこに煙突があるかも知れない。そう考えると少女は居ても立ってもいられませんでした。以前からず~っと気になっていた階段。少女の好奇心はどんどん膨らんでいきました。

いつもの様に病室から顔をだして、廊下を見ました。誰もいません。
少女はそーっと病室を抜け出し階段の方へ。心臓がドキドキしました。
もちろん指切りして約束していたことも覚えています。
階段の前を行ったり来たりしながらも、どうしてもサンタさんの煙突を見つけたいと思いました。
あたりの様子を伺いながら誰にも見つからないようにと少しずつゆっくり階段を上っていきました。
階段の半分上がったところに踊り場があり、階段はまだ上へと続いています。
先生や看護師さんの顔が浮かんで、とても自分が悪い子に思えてきました。やっぱり戻ろうと思いました。
その時です。階段の上から、「こんにちは」と声が聞こえてきました。見上げると、女の子が立っていました。
自分より少し大きな女の子が。

その子がおいでおいでと手招きします。少女は「行っちゃいけないって言われてるの。」と答えると、「じゃあ私が、半分まで降りるから、あなたが半分だけ上がってきて。」と言うのです。少女は、もう半分だけ階段を上ることにしました。女の子は、半分だけ階段を下りてきました。

そして、「私達お友達になりましょう。」そう言うと、毛糸で編んだ真っ白な小さな小さな靴下のマスコットを
「これ、あなたにあげる。」と少女に渡してくれました。
少女はとってもうれしかったのです。久し振りに心が弾みました。子どもの友達なんて一人もいなかったのですから。
「明日も、明後日も、その次の日も、私達ここであいましょうね。」そう女の子がいいました。少女は大きくうなずき、階段をおりていきました。もう煙突のことなんかすっかり忘れていました。

その時でした。いつも優しい看護婦さんが、見たことのない様な怖い顔をして少女の前に立っていました。
少女は思わずもらったばかりのマスコットを後ろ手に隠し後ずさりをしました。
「なにを隠したの?」看護婦さんの目は怒っています。「出しなさい。」そう言われて少女は握っていたマスコットを出しました。看護婦さんがそれを取り上げ、「これは、捨てましょうね。」と言ったのです。看護婦さんのあまりの怖さに少女はマスコットを渡してしまいました。少女は看護婦詰所へ連れて行かれ、丁寧に手を消毒されたのです。そして、もう一度絶対に階段には近づかないと約束しました。けれど、少女に初めてできたたった一人の友達との約束を、守ることができなくなってしまいました。

それから、まもなく少女は大学病院へ転院することになりました。
女の子とは、それが最初で最後の出会いと別れになりました。
大学病院では、もっともっと辛い治療が待っていました。
少女が治療よりも、もっともっと辛かったのは、いえ、悲しかったのたのは、友達が一人もいなかったことでした。少女は淋しいということを知ったのです。

大人になった今でもクリスマスが近づくと、あの時プレゼントされた手作りのマスコット。
真っ白で、可愛い靴下が、心の中の小さな痛みとなって星のようにキラッと光ります。



by haru123fu | 2010-12-23 08:55 | Comments(10)
Commented by harumimi1121 at 2010-12-23 10:23
haruさんおはようございます。
良いですね医療系(?)のストリー。
年末の忙しい時に家事をしながら次の展開を期待しています。
お話の中の6歳の女の子がharuさんと重なってしまいました(笑)
Commented by haru123fu at 2010-12-23 14:50
♪♪ harumimiさん。
いやぁ~。やっぱりharumimiさんを騙すことはできませんね(笑)
さすがに鋭い!(脱帽で~す。)
クリスマス競作のどさくさに紛れ、自分自身の本当のストーリー
を書きました。おっしゃるとおり6歳の少女は、私自身でした。
Commented by 矢菱虎犇 at 2010-12-23 15:11 x
僕はなんか怖い話になるんじゃないかとハラハラしながら読みました。だからラストはちょっとホッとしちゃったんです。
それにしてもいつものharuさんの雰囲気とちがってなんとも不思議な雰囲気ですねぇ。階段を半分のぼるシーンが頭の中にこびりついてしまいました。
haruさん、競作企画を盛り上げてくださってホントにありがとうございます!
Commented by ヴァッキーノ at 2010-12-23 16:05 x
病院ってのは、一種独特の遠近感があって、子供のころよく遊び場にしていました。
外の鉄の階段をカンカンと屋上まで上って行って、ものすごい数のシーツの洗濯ものの間を潜り抜けたりするんです。
なんか、薬品のにおいが漂ってて、総合病院はステキな遊び場でした。
この少女も、けっこう重い病気なんでしょうけど
悲しみや辛さっていろんな形があって、それが
たくさんの言葉を生みだすんだから、ひとつのロマンスですね。
6歳の少女ってのが、いいじゃないですか。
Commented by haru123fu at 2010-12-23 18:16
♪♪ 矢菱虎犇さん。
競作企画に参加させていただいたおかげで、とっても楽しい時間を過ごすことができました。
>不思議な雰囲気ですねぇ<
私が6歳の時の本当のお話を書かせて頂きました。
後で知ったことですが、階段の上は結核の隔離病棟だったんです。
でも、あの女の子に出会ったときはとっても嬉しかったんです。
もらった靴下のマスコットも絶対看護師さんに取り上げられたく
なくて、小さいなりにかなり抵抗をしました。(笑)
単調な病院生活の中での、ほんのわずかな時間でしたが、
子どもなりにほろ苦く、キラット光った忘れられないクリスマスでした。
クリスマス競作企画にさりげなく混ぜてもらおうと思ったのですが……
どうもバレバレのようですね。
実話を持ち込んで、ごめんなさいです。(スミマセン!)
Commented by haru123fu at 2010-12-23 19:08
♪♪ ヴァッキーノさん。
同感です。病院の屋上、私も大好きでした。頭の上には空がある。
真っ白なシーツが、風邪にゆらゆら揺れて、眼下に街を見下ろして。
ただ、残念なことに病室を抜け出して屋上へたどり着くまでに、
看護師さんに見つかり、小脇に抱えられベットへと連れ戻されていました。
屋上へたどり着く確率は10%ぐらいしかなかったかも。(笑)
クリスマス競作企画とっても楽しかったです。
ヴァッキーノさんのプレゼントが、参加するチャンスを与えて
くれました。本当にありがとうございました。
Commented by りんさん at 2010-12-24 00:09 x
haruさんの体験談なんですね。
元気になってよかったですね。
小さな出来事だけど、haruさんにとっては忘れられない思い出なんですね。
いいお話をありがとう。
競作、楽しかったですね^^
Commented by magokoro-3 at 2010-12-24 09:30
最後までドキドキしながら読ませていただきました。
女の子の純粋な心とその行動に子供らしさを感じました。
子供はもちろん、大人にとっても感動の物語りです。

Commented by haru123fu at 2010-12-24 12:08
♪♪ りんさんへ
りんさんのおかげで本当に競作楽しかったです。
私の幼かった時の思い出です。
でも不思議です。こうして文章に書くことで、とっても心が癒やされました。
階段で出会った女の子?もしかしたらエンジェルではないでしょうか?(笑)
☆りんさんメリークリスマス☆☆☆
Commented by haru123fu at 2010-12-24 12:14
♪♪ magokoroさん。
私のつたないお話を読んで下さってありがとうございます。
今こうして、不自由ながらも生きていられるのは、必死になって
治療して下さった先生や看護師さん。そして、両親のおかげです。
人への感謝の気持ちや先祖を敬う気持ちを、ずーっと持ち続けたいものです。
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