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エイプリルフール <ショートストーリー>

エイプリルフール <ショートストーリー>_f0227323_10434100.gifピンポン。玄関チャイムが鳴った。
夫が帰って来た。

「ただいま。」夫はにこやかに玄関に立っている。
「お帰りなさい。お疲れ様でした。」今日は特別な日である。
長年単身赴任だった夫が、3月31日で定年退職を迎えた。
そして、今日4月1日。引っ越し荷物の手配を終え、
やっと我が家へと帰ってきた。

「荷物は?」「うん。2・3日で届くはずだ。」
食卓には、私が腕をふるった料理が、たくさん並べられている。どれも夫の大好物。
夫は、「すごいなぁ、頑張ったね。これからは毎日ママの手料理が食べられるなぁ」と笑った。
「今日は、特別よ。明日からはこんなに沢山は、無理ですからね。」と私も笑った。

「美香が、まだ帰ってないからもう少し待つ?」
「そうだな。家族3人そろって乾杯しよう。」
そう言うと夫はいつもの定位置のソファーに深々と座って。
「やっぱり、ここはいいなぁ。」とつぶやいた。

リリ~ン、リリリ~ンと電話が鳴る。
「パパ、きっと美香よ。パパを迎えに行ったはずなのに、もうまったくドジなんだから」
私はそう言いながら電話をとった。
「ママ、ママ!パパが、パパが……」電話の声は思ったとおり美香だった。
私は、可笑しくてクスクス笑った。「どこで行き違ったのかしらね、早く帰ってきなさい。」

「ママ、落ち着いて聞いてね。」美香の声は半分泣き声だった。「パパが死んだのよ!」美香が電話口で叫んでいる。
「美香悪い冗談はよして早く帰って来なさい。エイプリルフールにママを騙そうと思っても残念でした。」
「ううん、ママ、本当に私の目の前で……。」そう言うと泣きじゃくりながら、言葉にならない声で
「早く来て!」と、それだけがなんとか聞き取れた。
私は受話器を持ったまま夫の方を振り向いた。そこに夫は居なかった。
「あらっ!パパどこ?」と大声で聞いた。

手に持った受話器からは、もしもし、もしもしと男性の声が響いている。あわてて、受話器を耳にあてると、
救急隊員だと名乗った。冷静にきちんと伝えるべき内容を私に伝えてくれた。
現在市内の救急救命センターへ搬送中とのこと。

エイプリルフール?受話器を置いて、私は家中夫を捜したが、夫はどこにもいなかった。
それからは、なにがどうなったのか、ただ、ただ、慌ただしく時が過ぎていった。

3回忌の法要を済ませ、娘と二人だけでもう一度パパのお墓へ来た。
交差点の信号待ち、道路を挟んで娘と夫は向かい合って手を振り合っていた。
それは一瞬の事だったという。
歩道に突進してきた車に父が押しつぶされた。ほぼ即死状態だったという。

でも、確かにその時、夫は我が家へ帰ってきた。
いつもの定位置のソファーに深々と座って。「やっぱり、ここはいいなぁ。」そうつぶやいた。

「パパは冗談が好きだったから、やっぱりエイプリルフールでママをだましにきたのよ。」
娘は涙ぬぐい笑顔を作った。
「そうね、パパらしいわよね。」あの乾杯するはずだったワインのボトルから、三人分のワインを注いだ。
墓前に置かれたワインに、私と娘は大きな声で、「パパお帰りなさい。カンパ~イ!」
グラスが、カチンと軽い音をたてた。
「ありがとう、ただいま。乾杯!」と聞こえた。4月1日エイプリルフールのできごとだった。
by haru123fu | 2011-04-02 10:06 | Comments(6)
Commented by 海野久実 at 2011-04-02 13:21 x
あー、これこれ。
こう言うのが好みなんですよね。
ドロドロせずに、ほのぼのしてて、人間の悲しさがあり、さわやかであり、それでいて怪談。
これをもっとふくらませて書けば、いい短編になりそうですね。

Commented by haru123fu at 2011-04-02 18:58
♪♪ 海野 久実さん。
私も、海野さんや、りんさんに刺激を受けてちょっと怪談風に、
書いてみました。
海野さんの「ついのべ」すごいですね。140字の小説。Twitter
見るのが楽しみになりました。
それにしても、すごく早いUPには、ビックリです。
140字ね~(´;ω;`)ウウ・・・真似してみたいけど。。。
な~んも出てきません。(@Д@;

blogでもTwitterででも、お話ができるなんてとっても嬉しいです。
ありがとうございます。
Commented by 矢菱虎犇 at 2011-04-03 00:32 x
遊びに来ましたあ。
エイプリルフール万歳!

今年はそこかしこ、なんだかエイプリルフール自粛って感じです。
去年はヤフーのページが壊れたり、gooのページがめくれたり、いろんな趣向が凝らしてあったのに・・・。
なんだかネットもテレビもとりあえず周囲に合わせて批判を浴びないようにしようって空気、イヤだなぁ。
そんなわけでエイプリルフールな作品、楽しませていただきました!

また遊びに来ますね~!(これはホントですぞ)
Commented by haru123fu at 2011-04-03 09:40
♪♪ 矢菱 虎犇さん。
あ、遊びに来てくれたんですね。
虎犇さんの所へは、いつも行っていたのですが、すっかり回復
されるまではと、コメントご遠慮してました。
「ゆっくり、のんびり生きる」と心で思いながらも、時々焦って
暴走しやすい私なもので。(/ω\)ハズカシーィ

虎犇さんも、のんびりいって下さいね。
Commented by ヴァッキーノ at 2011-04-03 15:44 x
ずいぶん幽霊のお話しが流行ってますね(笑)
まだ春になったばっかりですよ~。
人だけじゃないですけど、生き物はみんな死ぬんですね。
でもいつ死ぬかはわかりません。
自殺すれば、ある程度自分で死ぬ時期を決められますけど。
死んだらどうなるか?
その答えは誰も知らないので、
生きてる人にとっては幽霊になってもらうのが無難です。
話しは変わりますが、エープリルフールじゃないのにツイッターでうそばかりついてごめんなさい。
もううそはつきません!うそなう

すみません、風邪が治ったら、また来ます。
Commented by haru123fu at 2011-04-03 15:58
♪♪ ヴァッキーノさん。
しっかり休養をとって、風邪なおして下さい。
ヴァッキーノさんの「うそなう」メッチャおもしろいです。

>また高濃度!カルピスから高濃度の糖分が検出された。お好みの濃度になるよう水などで薄めて飲めば、健康に悪影響はないという。うそなう
↑ これ、なんど見ても笑えるし、感心します。
風評被害へのヴァッキーノさんらしい、対応策ですね。

風邪は、しっかり治さないとぶり返しますよ。気をつけて。
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